米国経済の破綻は、日本自立のチャンスだ! 2/3

稲村公望ファン

2009年08月17日 19:22




稲村公望
(衆議院比例区東海ブロック・国民新党公認候補)


米国経済の破綻は、日本自立のチャンスだ!
日本は新自由主義を超克し、
世界新秩序形成を主導せよ
対談
政治評論家森田実
中央大学大学院客員教授稲村公望
(『月刊日本』08年11月号より)
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【森田】 稲村さんが『月刊日本』10月号で紹介した通り、アメリカは新自由主義を導入するために「シヨック・ドクトリン」という手法を使った。平然と人権侵害さえ行われてきた。アルゼンチンでは3万人をも抹殺してシカゴ学派の提唱する政策を実現した。

 その結末が今回の経済破綻だ。「日本は大丈夫だ」などと呑気なことを言っている人がいるが、日本はアメリカに搾り取られたうえに沈没させられる運命にある。日本でほとんど報じられていないが、アメリカに忠実に従って新自由主義の改革を行った韓国はデフォルトの危機に直面している。

 アメリカは金融安定化法を成立させたが、この程度の措置で安定しないことは、その後の株価の暴落でもはっきりしている。すでにアメリカ政府は、コントロールする力を失っている。

 世界について言えば、パックス・アメリカーナが崩壊したということだ。そして、無秩序世界となったわけだ。

 もはや我々は新たな世界協調体制を再構築するしかない。そのためには、先進国だけの力では無理で、新興国の参加が必要である。ロバート・クーパーが『国家の崩壊 新リベラル帝国主義と世界秩序』(日本経済新聞出版社)で述べているように、世界はパックス・アメリカーナから「パックス・グローバリズム(全世界による平和)」へ移行していくしかない。

 ただし、その移行過程では絶望的な混乱期を経なければならないだろう。日本の政治家はこういう議論をほとんどしていない。ナオミ・クラインの著書『The Shok Doctrine』の存在すら、ほとんどの政治家が知らない。

『The Shok Doctrine』が世界の恩想を変える<森田>

【森田】 それにしても、稲村さんがあの700ページもの本を読破され、その本質を紹介された意義は大変大きい。『The Shok Doctrine』は、ケインズの『雇用、利子およぴ貨幣の一般理諭』、さらに言えばカール・マルクスの『資本諭』、アダム・スミスの『国富論』に匹敵するほど重要な本なのではないか、と思うほどである。

 『The Shok Doctrine』によってアメリカの市場原理主義者たちが次々に転向しているという話を耳にした。「フリードマンよ、さようなら!」運動が起こっている。有名なネオコンまでもが自己批判したともいう。同書は、アメリカとヨーロッパの思想を変えつつあると言っても過言ではない。

 日本では、伊藤千尋氏が昨年末、『反米大陸』(集英社新書)を上梓したが、これも極めて重要な著作だ。そこには、「ショック・ドクトリン」の理論のエッセンスが盛り込まれている。

 ここで伊藤氏は、「南米の政権交代をもたらしたのは、アメリカ流の新自由主義の経済をそのまま採用した政府の失敗だったが、政府を変えたのは市民の力である。格差を広げ、弱肉強食の社会を作ろうとする政府に対して市民が反対の意志を、投票やデモなどの形で明確に表明した」と書いている。

 いま、アメリカの裏庭である中南米は一斉に「脱米」に向かって動き出している。しかも、新自由主義と決別した国々は、栄え始めている。アメリカを乗り越えるモデルは中南米諸国にある。我々は、中南米諸国をも引き込んで、新たな世界的協調体制を作り上げるべきだ。そこには、アメリカもこ札までとは異なる立場で参加することになる。

 徳川幕府が明治維新によって政治体制を変えたように、アメリカ幕府体制から「パックス・グローバリズム」に変わる過程で、アメリカの地位はその構成国の一つに変わりつつある。

 明治維新の世界版をやるべきなのだ。坂本龍馬が起草した新国家体制の基本方針「船中八策」のような発想で、日本は中南米と手を組んで、「船中八策」の世界版の方針を打ち出すくらいの発想を持つべきだ。

 ところが、現在の日本の国会の議論は絶望的だ。世界金融危機すら話題にする議員が少ない。しばらく前にやっていた金融の議論の蒸し返しをしているに過ぎない。自民党も民主党もピントはずれの議論ばかりしている。いま、政党、政治家がなすべきことは、日本国民に、日本の生き方、生きる方向を示すことである。

 世界は「修正資本主義」、ないし「社会民主主義」の方向に転換しようとしている。代表質問においても、新自由主義か修正資本主義かという経済政策の原理について議論すべきだった。この重要な議論をまったくしていない。

 次の選挙では民主党が勝つかもしれないが、民主党には新自由主義を否定する発想もないし、どのような経済路線をとるべきかといった主張も不十分だ。また、イラク戦争、アフガン戦争の議論もない。どのような世界秩序を目指していくのかといった議論もない。恐ろしいほどの退廃、無知、魂の貧困だ。

【稲村】 日本総ボケの状況だ。危機感が全くない。心配なのは、経済が停滞する中で、戦争を画策する動きが出てくることだ。実際、イラン、グルジアなど各地できな臭い状況になってきている。日本は、主体的な立場で世界の安定のためにリーダーシップを発揮するべきだ。世界第二の経済大国である日本が、アメリカに追随しているのはおかしい。

 先月、バンコクに行ってきたが、タイは危機を認識し警戒警報を早く出すことのできる国だと思う。06年2月ごろ、タイではタクシン政権に対する反政府デモが発生し、その後、軍事クーデタが起こった。タクシン首相が、巨万の富を築きあげた電気通信会社の株式を外国資本に譲り渡して脱税したことが、タイ国民の怨嗟の対象となる大きな原因であった。

 つまり、新自由主義に陥ったタクシン政権と、グローバリズムを扇動する彼の背後関係に対するタイ国民の抗議の声である。その後、タイは民政に戻ったが、タクシン政権の後継となった現政権に対する抗議が続いているのである。このようにタイは、警戒警報を出すのが早い。

 明治維新の時代には日本人の感受性は、もっと強かったはずだ。ところが、現在の日本の指導者には激動の時代に適応しようという感受性が欠如している。目の前のことしか考えていない。

 「蛮社の獄」の高野長英にしろ、渡辺崋山にしろ、国際情勢の変化をとらえ、先駆けて警鐘を鳴らそうとした人々がいたが、当時の体制を維持しようとする勢力に弾圧された。それと似たような状況で、森田先生は早くから警鐘を鳴らそうとしていたため、マスコミから干されてしまった。正しいことを堂々と述べた言論人は、マスコミという権力によって潰されてきた。

【森田】 小泉構造政革でマスコミが失ったものは大きい。大マスコミは国民の信用という最も大切なものを失った。マスコミが新自由主義の手先となったために、国民のマスコミに対する信用は地に落ちた。テレビを見る人も減り、しかも半信半疑で見ている。
 大マスコミが依存してきた大企業からの広告収入も、限界に達している。私は3年前にマスコミの仕事を失ったが、逆にマスコミ批判の自由を得た。これから、私は徹底的にマスコミ批判を行っていく。

日本は一神教間の争いに巻き込まれるな<森田>

【森田】 9.11事件以後のブッシュの演説を調べたことがある。いかに神がかったものが多いかに驚かざるを得ない。そこには、神という言葉が頻繁に便われている。「我々は神の意志に基づいて戦う」とか、「善なるアメリカと悪なるテロリストとの戦いだ」とか、「我々は新たな十字軍である」といった言葉が用いられている。「新十字軍」の演説があまりにも強い反発を受けたために、その後、ブッシュの話はトーンダウンしたが、本質的には、アメリカは新十字軍戦争を戦っているという意識が続いているのではないか。イスラム側の意識は「十字軍との戦い」だ。

 「テロとの戦い」という言葉で日本のマスコミは鯛されているが、この「ブッシュの戦争」の本質を見失ってはならない。ブッシュの十字軍戦争を支えているのが、数千万のキリスト教右派であり、それを理論化したのがネオコンだ。アメリカとイスラムの戦争は、きれいな言葉を使えば、「文明の衡突」なのだ。

 つまり、アメリカは宗教戦争という泥沼に自ら嵌まっていった。かつての十字軍戦争は2世紀にわたって続いた。その過程でイスラムは「ジハード(聖戦)」の意識を強め、やがてキリスト教側は勝てなくなり、最後には敗北して逃げ帰った。

 ブッシュが継続している戦争は、日本が喜んで乗るような戦いではない。この戦争に加坦することは大きな間違いなのである。オバマが大統領になれば、アメリカはイラクからは撤退するだろうが、アフガニスタンについては、共和党、民主党とも徹底的に戦争を続けると言っている。オバマの場合には、イラクから撤退した軍隊はアフガンに集中させるという方針を示している。アメリカは、アフガニスタンの国際治安支援部隊(ISAF)に日本が参加することを求めている。

 私が最近、小沢一郎を批判しているのは、「私が政権をとったら、自衛隊をアフガンに派兵する」と、小沢が言ったからだ。

 アフガンというのは、不思議なところだ。アレキサンダー大王の遠征もアフガンでつまづいた。ジンギス・ハンの遠征もアフガンでつまづいた。さらにイギリスも、そしてソ運も、アフガンで同様の敗北経験をした。つまり、アフガンは、そこに侵攻した国が崩壊への道をたどっていく、不思議な土地なのだ。しかも、アフガンがイスラム化された後には、アフガンに手を出すとイスラム全体を敵に回すという法則ができ上がっている。

 アメリカに加担してアフガンに派兵することは、宗教戦争に我々が加担していくことになる。イスラム側からは、日本はキリスト教右派陣営の一員とみなされ、反撃の対象とされるだろう。

 こうした無茶苦茶なことを、自民党政権だけではなく、小沢民主党までがやろうとしている。由々しきことだ。ここに日本の重大な問題がある。日本は無益な宗教戦争を止めさせる立場に立つべきだ。こんな馬鹿なブッシュの戦争をいつまでも続けさせていたら、人類は滅ぶ。

 世界平和のために各宗教は調和し合って共存していくしかない。日本政府は「アフガンには自衛隊を派遣しない。費用も負担しない」と、アメリカに対してはっきい言うべきだ。一神教間の文明の衝突を回避するための役割を、日本は積極的に果たしていくべきだ。多様なものを包み込む包容性と寛容性を特徴とする日本文明こそが、非妥協的な力の対決を克服する方策を示すことができるのだ。

【稲村】 日本には、日本にふさわしい主体的な対外政策があるはずだ。植民地主義ではなく、平等互恵の関係を基本として、アジア、特に東南アジア諸国への貢献をした1970年代の日本の政策は、評価していい。1960年代、70年代の日本の経済政策もそれほど悪くなかった。都市と農村の格差も縮小した時代だ。

 ところが、日本が市場原理主義に毒されてから、経済政策はおかしくなり、日本は格差社会となった。そして、東南アジアに対する協力も薄くなり、日本に対するアジア諸国の信頼も揺らいでいる。それでも、アジアには日本に対する尊敬の念は残ってはいる。

 マハテイール前首相、タイの国王陛下をはじめ、アジアには本来の日本の真価を理解している人々がいる。また中南米にも友好的な勢力はいる。例えぱ、ブラジルには150万人の日系人がいる。我々は、新自由主義に抵抗し、主体的な政策を目指す勢力を糾合していくべきだ。

 ところが残念なことに、日木の経済社会システムを新自由主義の方向にさらに変革しようという目論見は続いている。モルガンスタンレーの日本通のエコノミストなどは、例えば、オープンスカイ協定、移民1,000万人計画、農地の売買自由化、ソブリン・ウエルス・ファンド(SWF)の設立、公務員の昇格基準にTOEFL650点を入れる、小学校一年生からの英語教育、40歳定年制度、会計基準の国際基準への収斂、国税庁を財務菅から切り離す、処方薬の広告自由化といった具体的な破壊策を豪語している。

 アメリカの多国籍企業が儲かるように、中南米などの政策を誘導するために暗躍したエコノミック・ヒットマンが、日本国内でも民間人を装って破壊工作を進めている。こうした事態が進んでいることに、国民の注意喚起をぜひ促したい。

 国益を重視する政治家もいて、市場原理主義を停止し、財務省の財政再建至上主義を停止しようとする動きもあるが、外国勢力を含む新自由主義勢力の猛烈な巻き返しがあり、状況は予断を許さない。

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